人生へのまなざし

第3回 見ているけれど、見えていないもの

病気になってから空を見ることが多くなりました。

「これからどうなるんだろう」——がんと診断された日、病院の外に出て見た空は、先が見えない私の心とは対照的な、雲一つないすっきりした青空でした。

「抗がん剤治療、ガンバロー!」と、自宅を出て気合いを入れるとき。

 

亡き両親に、「どうか見守ってね」とつぶやくとき。

 

「なんかわかんないけどつらいよー」と叫ぶとき。

 

副作用から解放されて一週間ぶりに外に出たときの「やったー!」。

 

麻酔から醒めて、歩けるようになった朝、病室の窓から……。

 

自然と空を仰いでいました。そんな私の一方的な思いを、いつもその大きな存在は静かに受けとめてくれました。

そしてあるとき、ふと思ったのです。
病気になる前は、こんなに空を見ることはなかった。

正しく言えば、見ようとしていなかった。
頭の中はいつも仕事のことや病弱な親の心配などに支配されていました。まだ起きてもいないことに臆病になり、四六時中、頭の中でストーリーを作って、不安になったり、忙しくなったり、勝手に悲劇の主人公になったりして。自分がいま立っている現実の世界を、五感で感じることを忘れていました。空だけではない。季節ごとに咲く花やその香りにも鈍感になっていました。だから病気になって、「こんなところにこんな花が咲いていたんだ」「秋になると、このあたりから金木犀の香りがするんだ」「こんなふうに木々の葉っぱの色が変化していくんだ」と初めて意識するようになりました。

見ようとしなければ見えないもの、視界に入っていても見ていないものがまだまだきっとあります。インターネットやSNSが生活の中心になりつつある現在、私たちは、体と心で感じる世界からどんどん離れていきます。もちろんそうした世界から完全に撤退することはできないけれど、時折、立ち止まって、体と心で感じる世界に生きてみたい。

 

皆さま

いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。自分の体験を語ることは、恥ずさもありながらのスタートでしたが、皆さまが読んでくださっているということに、私自身が励みを頂き、やはりこの体験は無駄ではなかったと確認する機会にもなっています。お一人お一人に感謝を伝えたいくらいです。
このほど第3回の写真を間違えてしまいました。
また新たに掲載していただいています。
お詫びとともに、今後ともよろしくお願いいたします。Rie

保存保存

保存保存保存保存

保存保存

Rie

Rie

投稿者の記事一覧

Rie
東京都生まれ。2015年5月に乳がんが分かり、半年間の抗がん剤治療を経て左乳房全摘出。現在もホルモン療法を続けている。これまで新聞記者、雑誌編集者などを経験し、がん患者やその家族、医療関係者などを取材してきたが、自分ががんになったことで、そのときには見えなかったこと、感じられなかったことを体験。病気を通して得た出会いのなかで、生きることの喜びとは何か、本当の健康とは、そして病とは人間にとってどのような存在なのかを追い求め、ご縁のあった方に自分の体験を通して気づいたことをお伝えしている。かつて取材を通して出会った「がん友」とも再会し、互いに病気を通して感じたことを分かち合っている。本当の健康の意味、知識について深めたいと、昨年、「健康予防管理専門士」の資格も取得。現在は中医学を学んでいる。

関連記事

  1. 第6回 「安心」
  2. 第2回 思いのこもった言葉に正しいも間違いもない!①頑張れ
  3. 「がらがら本(ガラガラポン)」 ~はじめに言葉ありき~
  4. 人生100年時代を考えてみる
  5. ほとけさまなら、「働き方改革」をどう考えるんだろう?
  6. 最近の若いもんは!(ミレニアル世代から学ぶこと…)
  7. 第8回 別れ
  8. 真っ暗な空にこそ、星は輝く 第2回

新着記事

家族の諸行(因縁によって生じたこの世の一切のこと)「母の場合」#12

信仰面で、母の行動が変わった。今までと違い個人宅へ毎週末のように出かけた。二か所だった。東京郊外と都…

真っ暗な空にこそ、星は輝く 第6回

大人になってからADHD(注意欠陥多動性障害)と診断された私が、子供の頃からの苦しい経験を振り返って…

AKKYの☆人生四苦ロック☆ 第1回

*プロフィールAKKY(ハンドルネーム)ロックボーカリストであり仏教徒である私。日々の感動や…

家族の諸行(因縁によって生じたこの世の一切のこと)「母の場合」#11

私とのわだかまりは、尾を引いたが、一方で、母は、人気者だった。母の外向けの顔は、満点に近いように…

浮気疑惑の処方箋②〜妄想列車の車輪をロック!

<前回のお話>第6回 浮気疑惑の処方箋①〜妄想列車は止まらないhttp://hotke.jp/2…

家族の諸行(因縁によって生じたこの世の一切のこと)「母の場合」#10

−話は数年遡ります。妹が我が家に登場した頃のことです。我が家の子として、迎え入れ、育てることに母は集…

PAGE TOP