人生へのまなざし

第4回 思いのこもった言葉に正しいも間違いもない ②大丈夫

大丈夫ーー。この言葉は、病気療養中、自分自身に言い聞かせていた言葉であり、たくさんの方にかけていただいた言葉でもあります。

抗がん剤治療初日、病院に向かう途中で偶然出会った20年来の知人の方から、「大丈夫!抗がん剤だって、がんだって吹き飛ばしてらっしゃい!」。そう言って背中を力強くさすって病院に送り出していただきました。
夫は毎朝「Rieは護られているから絶対に大丈夫だよ」と言って、会社に向かいました。心は不安でいっぱいだっただろうに。

前にも述べたように、がん患者に根拠のない励ましはタブーと言われることがあるけれど、根拠のある励ましってどんなものなのでしょうか。
根拠があれば、励まされたほうはうれしいのでしょうか。
そもそも絶対なんてあり得ないものだし、かつて体にいいと謳われていたものが、時代の変化の中で悪いものになったりします。「ガンによい食べ物」と言っても、ガンの予防効果があるものと、ガン治療中のそれとは違います。この人には合うものが、必ずしもあの人に合うとは限りません。絶対なんてないーーそのことだけが、絶対的なことなんじゃないかなと思います。
人間の命は本当に分からない。現にがんの治療中、私を毎日のように電話で元気づけてくれた方が、末期のガンでわずか1カ月で亡くなってしまいました。
私を励ましてくださった方を、私は一度も励ますことができないまま、お別れしてしまいました。

みんな明日のことは分かりません。来年の今日も生きていたいけれど、生きているという保障はありません。
ないからこそ、根拠のない「大丈夫」に希望を感じるのではないでしょうか。
少なくともここにいるがん患者はそうでした。なんだか分からないけどきっと大丈夫なんだ、今は不安でいっぱいだけど大丈夫なんだ――。バカみたいに信じて過ごしました。
先日、数人のご婦人とそんな話しをしていたとき、そのなかのお一人が突然泣き出してしまいました。
昨年、妹さんをがんで亡くされたとのこと。亡くなる数ヶ月前、「お姉さん、助けて」と、たびたび電話で痛みや不安を訴えてくる妹さんに、なんの言葉もかけられなかったと言います。何度も「大丈夫よ」と口から出かかった。けれど、「根拠のない励ましは返って妹を傷つけるのではないか」「治る見込みがないのに大丈夫とは言えない」と、言葉を飲み込んだそうです。
「大丈夫」と言ってあげられなかったことをずっと悔やんでいた――何度も何度もそう繰り返しました。

私はこうお伝えしました。どうか、言えなかった自分を責めないでほしい。それも妹さんを思うお姉さんの温かい思いだから。きっと妹さんにも伝わっているはずだから。

相手に対して積極的に伝えることも大事だけれど、伝えない選択も、思いやりの行動の一つだと私は思います。
どんな言動も、その奥に相手を思う温かい気持ちがあれば、自分が表そうとしなくても伝わってしまうもの。
表には見えない思いを、私はたくさん受け取りました。

 

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Rie

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東京都生まれ。2015年5月に乳がんが分かり、半年間の抗がん剤治療を経て左乳房全摘出。現在もホルモン療法を続けている。これまで新聞記者、雑誌編集者などを経験し、がん患者やその家族、医療関係者などを取材してきたが、自分ががんになったことで、そのときには見えなかったこと、感じられなかったことを体験。病気を通して得た出会いのなかで、生きることの喜びとは何か、本当の健康とは、そして病とは人間にとってどのような存在なのかを追い求め、ご縁のあった方に自分の体験を通して気づいたことをお伝えしている。かつて取材を通して出会った「がん友」とも再会し、互いに病気を通して感じたことを分かち合っている。本当の健康の意味、知識について深めたいと、昨年、「健康予防管理専門士」の資格も取得。現在は中医学を学んでいる。

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