エッセー

瞑想を学習しています

タイの山岳地帯で洞窟に閉じ込められた少年サッカーチームの12人の少年たちとコーチのエーカポンさんは、懸命の救出活動の甲斐あって無事救出されました。救出後、彼らは救出活動の中で亡くなった方の供養のために出家して修行に励みました。また、タイ国籍を持っていなかったコーチと3人の少年に、申請通りに国籍が与えられたとのニュースも伝えられました。

少年たちは救助隊に発見されるまでの約10日間、食料も情報もない暗黒の洞窟の中で、エーカポンさんの指導で瞑想を実践し、心と体調の安定を得ていたそうです。発見されたときの彼らの明るく落ち着いた態度や表情は、瞑想実践の賜物だったのですね。さすが仏教国タイの少年たちだと私も感じ入りました。

現在、「瞑想」「マインドフルネス」「禅」などが世界的ブームになっていますが、タイの洞窟の出来事をきっかけに、瞑想はさらに広まっていくことでしょう。

この出来事の少し前、東京で「ホッと家の縁がわ」の縁ともの交流会が開かれ、タイで「気づき」の瞑想の普及と指導に尽力しておられる浦崎雅代さんの講演と実践指導がありました。それに続いて洞窟のニュースです。私の中で、瞑想をマスターしようという思いが強くなりました。

50年近く前、京都で大学生をしていた私は禅に心惹かれ、禅寺に寄宿して、寺小僧に近い生活を3年近く送りました。朝は4時半に起きて座禅・勤行と作務、大学から帰ると当番で夕食を作ったり、薪で風呂を焚いたり。夜は茶礼といって、抹茶とお菓子をいただきながら和尚を囲んで和やかな茶話。そして翌朝に備えて早めに自室に入りました。

今振り返ると、当時私が惹かれていたのは、禅自体よりも、中世の禅文学だったと思われます。特に宗峰妙超の「大燈国師語録(特に頌古)」。深遠で純粋で美しく、力強い精神の世界に圧倒されました。寂室元光の「永源寂室和尚語録」の、無私で清冽な孤高の境地にも憧れました。どちらも当時大学生の私には非常に難解で、十分な理解には届きませんでしたが。

私は大学を卒業後に地元茨城に帰って高校教師になり、しばらく禅や瞑想とは離れていましたが、59歳の時に縁あってインドに渡り、約1年間日本語教師の仕事をしました。インドは信仰と瞑想の国と言っても過言ではありません。ヒンズー教の寺院やキリスト教の教会では、多くの善男信女が額づき、祈り、瞑想をしていました。神像の前で目を閉じて見事な結跏趺坐(両足を組んで座禅・瞑想をする姿勢)をする若者の姿も見ました。

私もその影響を受けて、仕事を終えた夕方、近くのヒンズー教寺院に詣でて祈った後、地下の瞑想室で瞑想をするようになりました。不安や焦りが和らいで心が安らかになり、大きな生命に包まれているような心境になりました。

帰国後も、日本在住のヒンズー教やタイ仏教のお坊さんから瞑想の指導を受ける機会があり、時折瞑想をしていました。そして、浦崎さんにお目にかかり、タイの洞窟のニュースに接したのが良いきっかけとなり、瞑想を毎日の日課にしようと考えるようになりました。

現在はできるだけ毎日1回は瞑想をするようにしています。インターネットのYouTubeには様々な瞑想指導の動画がアップされているので、それを見て学習しています。浦崎さんの尊敬するタイ在住の日本人僧侶ナラテボー師の動画もあります。

瞑想で私が心がけていることが二つあります。一つは、過去や未来を思わず、「現在」に集中することです。過去は懐かしさや後悔など、未来は不安や願望などに捕らわれて、心が安心や落ち着きから離れてしまいます。せめて瞑想中は「いま、ここにいること」にしっかりと心を置きたいと思っています。

もう一つは、大きな愛、深い慈悲に包まれていることを信じることです。生きていること、瞑想ができること自体が大きな愛・慈悲の賜物だと思うのです。

現世が苦の世界であること、生の根源に苦があることは、いかに幸福な境涯の人になっても、いかに社会が進歩しても、本質的に変わることはないでしょう。そうした宿命に生きる中で、瞑想が私にもたらしてくれる実りを、感謝して大切にしたいと考えています。

 

田中登志道

田中登志道

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1950年茨城県生まれ。公立高校の教師をしながら不登校児支援ボランティアの活動に取り組んだ。1995年に全日本カウンセリング協議会認定カウンセラー2級を取得。2000年にフリースペースを設立し、進路相談や学習指導、カウンセリングにあたった。2008年、公立高校教頭の職を辞し、教育カウンセラーとして不登校、引きこもりの子どもを抱える家族の支援を続ける傍ら、生活困難者の自立支援、路上生活者の援助、障害者と共に生きる活動などに携わっている。
著書「不登校からの出発」(佼成出版社刊)
  「不登校かな!?と思ったときに読む本」(佼成出版社刊)

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