特集

真の大物・樹木希林さんに出逢った <前篇>

キレイに撮らないで

3年ほど前、私はライター業からの卒業を考えていた。ただ、ライターをしているならどうしてもインタビュー、というより会っておきたい人がいた。それは樹木希林さん。誰にも媚びず、でも愛嬌があって、実際はどんな人なんだろう、会ってみたい。希林さんに会えたら私はライターをいつ辞めても悔いはない。

ほどなくして希林さんへのインタビューが叶った。15年以上の生業で著名人には慣れていたものの、さすがに彼女ほどの大物からの「まさかのOK」に嬉しいやら緊張するやら。とにかく取材は失礼のないよう要領よく短めに30分くらいで済ませねば! すると事前に、「せっかくいらして頂くんだから1時間は話していってちょうだい」という驚きの連絡が!

売れっ子へのインタビューは、依頼した所要時間より短く切られるのが常。人によっては、質問内容を事前に提出させられ、会話の流れで発生する脱線も許されない。”大物”であればどんな条件が飛んでくるかと身構えていた矢先に、なんと! 後にも先にも、こんな寛大な条件は頂いたことはない。早々に希林さんの懐の大きさに飲み込まれそうな予感。

いよいよ取材当日「希林館」(ご本人のご自宅)へ。写真をインタビュー後に撮影すると伝えると、「キレイに撮らないでほしいの。話している途中で適当に撮ってくれないかしら」。これまたインタビュー史上初!バストアップの1カットだって、女性はもちろん、男性だってキレイにカッコよく撮られたくて、メイクさんやら衣装さんやら付きっきりで、ちょっと動くごとにあれこれ整え、挙句の果てにはデータで細かく修整まで施すというのに、「キレイに撮るな」なんてタダモノではないわ。

希林さんは本当にノーメイク。ヘアスタイルも白髪のままで何も細工はしない。
「白髪を染めたがる人多いけど、なんでそんなことするかなぁ。白い髪は歳をとった特権。若い人にはないものなんだから楽しめばいいのに。できなくなったことを恨むより、変化をおもしろがるほうが楽しいよ」
ポツポツと増えてきた白髪を疎ましく思っている私…いつかこんな風に潔くなれるのかな。希林さんはいつも化粧ポーチは持たずリップクリームをポケットに入れるだけ。その潔さを目の当たりにすると、巷で騒ぐ”アンチ”エイジングなんてちょっとカッコ悪く思えてくる。

地方のロケ先にも荷物は自分で持ち、新幹線や飛行機のチケットは自分で取って一人で行く。「年寄りはジパングクラブでお安く取れるのよ」とちゃっかり自慢。お付の人も仕事をさばくマネージャーもおらず、「気を使わないで済むし、こんなラクなことはない。仕事はFAXが受けてくれるから」とサラリ。

それでもスケジュール調整とか交渉とかややこしいことがあるのでは、と私が問うと「スケジュールは来た順。決まった順に入れていけば何もややこしくない。後から来たあれを先に決めておけばよかった、とか、後からもっといいのが来るかも、とか思うからややこしくなる。オファーが来た順番に決めて行って、後から来たものがバッティングしちゃったら、それはそういうご縁だったということよ」。

いたってシンプル。確かにそうだ。私なんぞが混乱するのはどれも手放すまいと画策しようとするから。「余計なものはなるべく持たない。そうすると心もスッキリしてくる」。家の中も見事にスッキリ。でも仕事の方法や生き方まで断捨離を徹底するのはそんなに簡単ではないよね…。

だからといって希林さんは、ストイックとか優等生的な堅苦しさはないし、単なるお人よしでもない。「若い頃は欲深で散々失敗してきたし、生意気でとんでもない女だった」らしい。実は、私が最初に「この仕事をしているならどうしてもお会いしたかったんです」と告げると、希林さんは「それじゃあ原稿はその書き出しにしなさい。どうしてもお会いしたかった人ですが、会ってみたら大したことなかった、というオチにしてね」とまで”指示”が入った。こんな風にお節介で一言多い感じ、私は嬉しかったけど、きっと若い頃は生意気に取られること、多かったんじゃないかな。

次回も、希林さんのあふれる魅力を綴ります。

 

かしわぎなおこ

かしわぎなおこ

投稿者の記事一覧

●小学校から大学までキリスト教系の私立一貫校で育つ。
キリスト教信者ではないが、幼い頃から「祈ること」や「神様」は身近に感じてきた。
ただ、学生時代はシスターの教えは大嫌いで怒られてばかり。ミサは寝る、聖書はイタズラ書き。
社会に出てからは、教えられたキレイ事は通用しないし、普段は忘れているものの、何か大きな出来事があると、心のどこかで「神様の力かな」と自然に思っている。

●銀行員から西城秀樹へ 25歳で大転身
銀行総合職をやめたいと思っていたとき、中学から大好きだったヒデキの事務所から、当時ファンクラブに所属していた私に事務所で働かないかと声がかかり、夢かとビビる。
「人生最大の神様のイタズラ!のらないと女が廃る!」と思って飛び込んだ。

●30歳でフリーに
著名人インタビュー、雑誌・書籍制作など、「書く」仕事を中心に、メディアのプロデュースと制作。
書く仕事は手段でしかなく、本望は「私が魅力を感じるコンテンツを世の中に伝えたい」。←秀樹時代から変わらない
多くの企画の中で、特に「フラガール」「高橋大輔」に関わった仕事は私にとっての代表作。
ハワイ好きの私が映画「フラガール」とのタイアップでつくったフラ教本は、複数回重版がかかる異例のヒットに。
トップアスリートに7年間密着して、バンクーバー、ソチ五輪に行けたことは人生の財産になり、書籍を6巻シリーズで発行し、メディア制作業としても集大成になった。
時代の変化と共に「私が魅力を感じるコンテンツ」も変化し、今はフレンチシェフの社会活動とその発信をサポート中。

●信条
「好きはすべての原動力」
私は基本は仕事が嫌いなので、好きなこと(興味のあること)を仕事にする。

●好きなもの
ハワイ、デニム、Tシャツ
私はハワイの太陽でしか充電できません。今のところまだ少し電池残ってます。

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