家族とつながる

家族の諸行(因縁によって生じたこの世の一切のこと)「母の場合」#11

私とのわだかまりは、尾を引いたが、一方で、母は、人気者だった。
母の外向けの顔は、満点に近いように人さまからは受け取られていた。父の関係で、貰い物が多い。生もののこともある。美味しいうちにと、隣近所に配って歩く。どこの家で何が歓迎されたかも頭に入っている。上手に配分してある。その都度、気の利いた会話を手短にして、帰っていく。苦労した痕跡が感ぜられないない笑顔付きだ。

特に評判が上がったのは、一つの出来事からだった。路地の入口の所を通る細い下水路から、生活排水が頻繁にあふれ出る。道の合流部分、車が通るために、上部がコンクリートで塞がれている。道の曲がりに沿って、水路が湾曲している。この部分に物が詰まるのが原因だ。溢れた下水が、坂の下の家々の門付近まで流れ出す。夏には臭いが辺りに漂う。元々、路地に通る車の荷重に耐えかねて、割れたコンクリート製の蓋が、何か所か置かれていた。それを、我が家が引っ越した際、コンクリートで完全に蓋をした。それ故、我が家に責任があると云えば言えた。母がこの解決に取り組んだ。

ここの蓋をしたのは、母の旧知の何でもしてくれる大工さんだ。その人に頼んで、中央部に穴をあけてもらった。そこから詰まったものを取り出し、また蓋をするようにした。長い竹を削いだ道具と風呂場の椅子を持って、暑い夏の日、そこで奮闘した。下水路の上側から、竹を差し込んで、詰まったごみを押す。真ん中の所で取り出す。飲料の空き缶から、菓子パンの包装紙、レジ袋等、次々に大量に出てくる。何時間もかかった。

前の道が、高校生、大学生の通学路だ。駅前の店でパンと飲み物を買い、丁度食べ終わる我が家の近辺で、ゴミを捨てる。しかも住宅街に入って、目立たない場所だ。中にはわざと詰まるように、押し込んで行く者もいる。母は、麦わら帽を被って、椅子にしゃがみ込み、一人で頑張った。その内、一人二人と、直接被害者の下流側のおばさん達が、加勢に加わった。
「我が家が蓋をしたから済みませんね。」
「いえいえ、元々、ゴミがよく詰まって、溢れていた場所なんですよ。」
母と世間話のお喋りをしながら、作業をした。やがて、上流側からも応援に加わってくれるようになった。学生達とは、根競べだった。下水が溢れるたびに、作業は続いた。

おばさん達が大勢で苦労しながら、ごみを引っ張り出している様子を横目で見ながら、反省した学生達がいたのだろう。徐々にゴミの量が減ってきた。それで落ち着くのかと思われたある日、下水が大量にあふれ出ることが起こった。今度は、これでもかという程、無理やりに空き缶とゴミの塊が押し込んである。引っ張り出そうにも、手が届かない。逆から押し出そうにも、ビクともしない。これは相当悪意があると思われた。

困り果てていた。上流の家でも、水を流さないようにして、協力してくれた。悪戦苦闘しているとき、下校途中の大柄な大学生が、手助けをしてくれた。手も長い。肩まで手を入れて、とうとう引っ張り出してくれた。おばさん達は、歓声を上げて、喜んだ。バケツにきれいな水を入れて、石鹸で、汚れた腕を洗ってもらった。「有難う」、「有難う」の感謝の声に送られながら、帰っていった。

その後、この人が仲間に声がけをしてくれたのか、どうか分からない。空き缶やビニール袋のごみ捨ては無くなっていった。時々、パンの小さな空き袋が落ちている程度になった。下水も溢れることもなく、おばさん達が集まる場面は、無くなった。しかし、連携の絆は残った。それからは、母の所に訪ねてきては、茶飲み話をしたり、近所の困りごとの相談をしていくようになった。母が中心で、下流の一番の被害者宅のお婆さんが、母の大ファンになり、声掛けの世話役をした。
その様なことは、後年母が、体が弱り車椅子でしか外出できなくなるまで続いた。

信仰面では、ある時から母の行動に変化が起きた。それまで通った場所と違うところに毎週末に出かける様になった。それまで厳しく指導を受けていた信仰団体の方針が変わった。座学の勉強をする機会が増えたようだ。一方で、厳しい指導がなされる場が、少なく成り、やがて、希少価値のような存在で、非公式の場で行われるようになった。そこに、母と同行の人何人かを途中で車に乗せていくのが私か、兄の役割になった。

次回はこの話の続きです。

イチゾウ

イチゾウ

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団塊世代、重厚長大産業出身、第二の人生真っ只中。

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