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家族の諸行(因縁によって生じたこの世の一切のこと)「母の場合」#12

信仰面で、母の行動が変わった。今までと違い個人宅へ毎週末のように出かけた。二か所だった。東京郊外と都内だ。どちらも自宅から車で、片道一時間以上かかる。兄弟のどちらかに運転手の役割が回ってきた。私の目から見ると、兄の都合が優先されたように見えた。私の出番が多かった。朝から夕方まで、丸一日がかりだ。集まる顔ぶれは同じだった。そこで行われていることを、座敷の隅で、毎回観察していた。不思議な世界だった。

八畳くらいの広さの部屋に、二重に成った人の座る輪が出来る。その中で、生々しい苦しみや悩みが、語られる。その都度、皆がお題目を唱える。すると霊感の強い人に霊が降りる。その語る言葉を車座の中心になっている人が問い正し、吟味して、また問い正すことが繰り返される。降りている霊は、先祖だったり、関わりを持つ過去の人だったりする。その言葉や物語が、問題解決の糸口に成って、指導が行われる。

時には、いきなり、位の高そうな人が厳かに語りだすこともある。その話を、その場にいる人たちが全員で、吟味し、意味を確認し合って、理解を共有している。それは全員に対する指導であったりする。それらの総てのことを、母が大学ノートに素早く書き取っている。字が綺麗な事と正確に記録できることで選ばれたらしい。又、私は、それらのことを不思議だなと思いつつ、居心地の悪さは感じないでそこに傍観者としていた。母とのわだかまりの軽減に少しでも役立てばと思っていた。そのような事が、大学卒業迄続いた。

母は、その後も、長い間その場所に通っていた。
その内に、この人たちの世界の中でも、変化が起こった。高齢で一番高い位置づけの霊感者が他界した。その娘さんも霊感者だったが、その跡を継ぐ役割をしたいと強く願う人が現れた。派閥争いのような揉め事が続いた。そのような中で、母がスケープゴートになったのか、辛そうな顔をして帰ってくることが多くなった様だ。やがて、根性叩きといわれるような修行が続いたようだ。

とうとう行かなくなった。「もう出てくるな」と言われたようだ。寂しそうな顔して家にいることが多くなった。私が、帰京した折に、家でコチコチの肩を揉んであげると、「優しくしてもらうと涙が出そうだよ。」とポツリという。しかし、何が進行中なのか、そこでの出来事は、語ろうとしなかった。余程確りした指導者がいないと、霊感に頼る世界の集まりを纏めていくことは難しいのだろうなと感じた。

その世界に後ろ髪をひかれつつ、母は元の信仰の表の世界に戻っていった。

私とのわだかまりの消えない部分は、まだ残っていた。それは私の、結婚対象者が現れると、貶し始める点だった。兄の時は、わが娘のように受け入れて、素早く結婚させた。妹も、自分が生んだ娘ではないが、遠い親戚の、製薬会社の研究者に嫁がせた。これもスムーズな展開だった。一方、私の場合は、
「これはと云う様な人も現れないし、兄と違って、あなたはどこか胡散臭いところがあるから、ダメなんじゃないの。」
と言いつつ片端からケチをつけてくる。

私は、若い内から海外の仕事に恵まれた。お客さんに可愛がられて、大型の仕事がどんどん取れた。仕事が面白くてしょうがなかった。あっという間に、三十歳を越えた。いろいろの人が私の相手のことを気にかけて話を持ち込んでくれた。会社の上司も、仕事の取引先も、父も、親戚も、母の信仰仲間の人たちも。しかし母が、次々にケチをつけてくる。妹も結婚する前は、母に便乗して、ケチの上乗せをしてきた。
「口元がだらしない。」
「歯並びが悪い。」
「スペックが高すぎる。貴方の会社の給料では大変だよ。」
「良い娘さんそうには見えないね。」
父の持ってくる偉い人の娘の話には、母も妹も一番手厳しい。
最後には、「まああなたが決めることだから自分はどうでもいいけど。」が付く。
気を取り直して、会ってみても、我が家とはうまく行きそうもないかなと云う流れになってしまう。それは、現在の家内の話に行き着くまで続いた。

私が三十代後半になり、ニューヨーク赴任スケジュールも半年後に迫った。父が、突然、親しい友達の娘を我が家に連れてきた。父が私と母のために選んできた切り札だった。父の狙いは、直ぐに、母も悟った。今まで見せてきた反応とは、打って変わって、素直に受け入れた。何か、鍵がやっと会って、扉が開いたようだった。母との懸案のわだかまりの残渣(ざんさ)が消えた時だ。妹も、兄も兄嫁も家族全体が初めて、無条件で受け入れた感じだった。
我が家のページが一つまた進めたような展開だった。

次回は、母に忍び寄る病と信仰面での変化がもたらす新たな波紋の話です。

イチゾウ

イチゾウ

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団塊世代、重厚長大産業出身、第二の人生真っ只中。

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